久々に韓国で高評価を受けた災害映画ということで、期待しつつ見てみたら…
いい意味で想像していた内容と全く違い、かなり考えさせられました…
これから『コンクリート・ユートピア』を見る方は、そのまま見ても楽しめますが、映画の背景を知っておくと、かなり深く鑑賞できるので、ぜひ見どころをチェックしてください。
知って見ると2倍楽しめます!
『コンクリート・ユートピア』あらすじと作品情報
公開 / 時間 / 年齢制限 | 2023 / 130分 / G |
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原題 | 콘크리트 유토피아(コンクリート・ユートピア) |
監督 | オム・テファ |
出演 | イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン、キム・ソニョン、パク・ジフ、キム・ドユン |
あらすじ | 全世界を巻き込んだ大地震で一夜にして廃墟となったソウル。 すべてが崩壊した中、ファングンアパートだけは無事だった。噂を聞きつけた外部の生存者がアパートに押し寄せ、脅威を感じ始める入居者たち。 生き残るために団結した彼らは、新しく住民代表としてヨンタク(イ・ビョンホン)を選び、外部の立ち入りを徹底的に遮断、アパート住民だけの新しいルールを作り、安全で平和なユートピアを作ろうとする。 が、これはまた予想もしなかった混乱の始まりだった… |
- 原作:キム・スンニュン作家の人気ウェブトゥーン『陽気ないじめ』の2部「陽気な隣人」を新たに脚色
- 参考書:パク・ヘチョン作家『コンクリート ユートピア』(韓国社会でアパートがどのように位置づけられ、今の形になったかを多角的に扱っている人文書)→映画タイトル
『コンクリート・ユートピア』感想:ネタバレなし
これは災害映画というより、社会風刺のきいた群像劇。
災害に遭う過程ではなく、災害に遭った後、極限状態の人間たちがどんな行動をとるかが描かれていて、正直、誰が正しいかなんてわからない、善悪つけられない状況で、「自分だったらどうする?」と悩まされる映画。
もちろん、人によって共感する登場人物も感想も違うはず。
それでいてブラックコメディ、スリラーもちょっと入ってて。
すごいのは、この災害状況で韓国の現状を痛烈に風刺していること。
映画冒頭で、韓国人にとってアパート(日本でいう高層マンション)がどう発展し、良いアパートに住むために国民が奮闘する様子などがモンタージュで流れますが、韓国では一戸建てが夢のマイホームではなく、アパートを持つことがステータス。
それ故に、どの地域のどのアパートか、持ち家なのか賃貸なのかで階級分けされるようなところがあり、アパートが不動産投資にもなっていたのですが、近年の不景気や社会問題ともなっている詐欺など、韓国でアパートを持つことがどれだけ大変か、アパートに対する執着心が皮肉にも描かれているんです。
自分の家族のために命をかけてアパートを守る、そのためにはどんなこともする、でも一歩外は地獄。
韓国に住んでいる身としては、すごくおもしろかった!というよりは『パラサイト 半地下の家族』を見終わった時のように、いろいろ考えさせられてボーっと放心…
最後に出てくるタイトルを見ながら、『コンクリート・ユートピア』って、まさにアパートを崇拝する韓国のことじゃん!と思いつつ、反語的状況にちょっとしんみりするのでした…
こういう風刺がきいてるのがすごいよね
見どころ解説:知ってると2倍楽しめる!
アパート共和国、韓国を風刺
韓国でいう「アパート」は日本の高層マンションにあたり、日本のイメージのアパートとはだいぶ違います。
当初は日本と同じように、効率的に多くの世帯を収容するために建てられたものでしたが、韓国では政権の思惑や不動産投資などで独自の発展をとげ、今でも続くニュータウン建設や再開発計画とともに大型のアパート団地が建てられ、その周辺には商業施設、教育施設が集まります。
-20℃になることもある極寒の韓国では、オンドルが完備されているアパートの方が暖かく(世帯が集まっているのでさらに暖かい)、ゴミ捨てや掃除などの管理もしてくれるアパートの方が便利で快適。
高級アパートになるとフィットネス施設まで完備されているほどで、富裕層や著名人もアパート暮らしを好み、アパートの価値が上がり、信じられないほど地価高騰しても、韓国ではみんながアパート暮らしを夢見ているんです。
一方、厳しい経済状況でそうした欲望を逆手にとった不動産詐欺が横行し、多額の被害額や自殺者が社会問題にもなっている現状…。
そしてアパート暮らしでもランクがあり、地域、持ち家 or 賃貸、アパート自体で階級分けされるようなところがあります。
だから「いいアパートに住みたい!」とまるでアパートに狂っているのが韓国なのです。
それはまるでアパートに住めなかったら人生が終わってしまうかのようで、韓国人がそれだけアパートを偏愛し、アパートを求めているのがわかると、映画を見る視線も変わります。
格差社会の生きづらさから自国を「ヘル朝鮮(ヘル=地獄)」と呼び、恋愛、結婚、出産をあきらめた「三放世代」、就職と家もあきらめた「五放世代」、そして人間関係、夢、希望…と人生全てをあきらめるところまで行きつき、それらをひっくるめて「N放世代」と自虐。
これを知った上で映画を見てみて!
アパートの歌
映画の中盤、カラオケシーンで登場するのが、韓国人なら誰でも知っている1980年代の大ヒット曲、その名も『アパート』
もうこのシーン、イ・ビョンホンの演技がすごいんですよ!(映像はさわりだけ)
今でも韓国でカラオケの定番として歌われる陽気で明るい歌なんですが、このシーンを境にサッと映画が変わるんです!要注目!!
エンディング曲もこの曲で、途中から登場したパク・ジフが歌ってるよ(同じ曲でも人物によって雰囲気が違うのも見どころ)
対立するアパート
本作の「ファングンアパート」は庶民的な古いアパートで、そこへ外部者としてやってくる人の多くは向かいの高級アパート「ドリームパレス」の住人だというのがまたおもしろいポイントになっているんですが、
実は2023年、韓国で公開された映画『ドリームパレス』もアパートに関する映画なんです。
しかも主演女優は「ファングンアパート」の婦人会会長を演じたキム・ソニョン。
この婦人会会長がドリームパレスについて言及するシーンもあるんですが、これは偶然なんだそう。
実存しないアパート名を考えたところ、こうなったそうで、それにしても同じような時期にアパートに関する映画が公開されるほど、現在の韓国において関心がある話題といえるでしょう。
キリスト教的な装置がおもしろい
実は韓国ではキリスト教がかなり普及していて、宗教人口では第1位。
街中にも教会の十字架があちこちに見え、クリスマスも祝日、よって聖書の内容をよく知っている人が多いんです。
本作『コンクリート・ユートピア』にもそうした聖書的な装置があって、知らなくてもストーリーとは直接的に関係ないんですが、わかったらおもしろさが倍増しますよ!
名前とか道具とか…気をつけて見てね!
韓国での評価
観客数:384万人
評価(10点満点):8.18点
観客数は思ったより伸びませんでしたが、かなりの高評価!
好評 |
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不評 |
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追記:『バッドランド・ハンターズ』は続編!?
2024年公開のマ・ドンソク主演、プロデュースのNetflix映画『バッドランド・ハンターズ』を見ていたら、なにやら設定や背景が『コンクリート・ユートピア』に似てる…
しかも大地震の後に唯一残ったというアパートは、なんとあの「ファングンアパート」じゃないですか!
名前は出てこないけど、外見そのまま!
これについて『バッドランド・ハンターズ』の監督は、
ホ監督は「全く違う世界観と全く違うストーリー構造を持ち、『バッドランド・ハンターズ』は続編ではなく、独立したストーリーを持つアクション・ブロックバスター」だと強調した。
마동석·허명행 감독, 액션 차별화 자신한 ‘황야’
ホ・ミョンヘン監督は、『キングダム』『犯罪都市』『新感染 ファイナル・エクスプレス』などの武術監督をしてきて、今回が初監督作品。
それだけに『バッドランド・ハンターズ』はアクション全振り。
まるでゲーム画面のようなハチャメチャな戦闘シーン満載で、『コンクリート・ユートピア』とはストーリーもジャンルもまったくの別物。
でもどちらも見ている人は、知る人ぞ知る背景に密かな楽しみを感じるかも。
同じ環境で別の人物が登場する、マルチバースみたいな感じ!?
最後に:パク・ソジュン夫婦のインスタグラム
オム・テファ監督はリアリティ追求のために、端役でもオーディションで選び、各部屋の住人の職業、家族構成、生存状況まで設定したんだそう。
それだけに各部屋の家具や小道具など、美術にもかなり力を入れたそうで、パク・ソジュン&パク・ボヨンのウエディング写真も実際に撮り、できれば災害前の話も入れたかったそうなんですが、こちらは断念。
そのかわり、2人の新婚生活のインスタグラムが公開されています。
この写真は「ミョンファと家の近所で花見デート🌸 ハハハ後ろに隠れてるのかわいいね」
事前に見ておくと、ファングンアパート周辺の災害前の様子がわかるので、感じ方も変わるかも!?
また、監督は群衆の撮り方、人物配置にも力を入れ、黒澤明監督の『七人の侍』や『生きる』を参考にしたそうです。
友情出演で野宿をしている役で登場したオム・テグは、監督の実の弟だよ
映画を見た方は、ネタバレ考察もどうぞ!
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