ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』がカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞(韓国初)しただけでなく、
なんとアカデミー賞で作品賞も受賞しました!!!
英語以外の言語の映画が作品賞を受賞するのは史上初という快挙です!
カンヌとアカデミー賞の最高賞を両方受賞なんて、本当にすごいよ!!
韓国在住の特権で、日本公開よりもかなり早く見たのですが、初めて見た時の正直な感想と韓国での評価をお伝えします。
これから見る方への鑑賞ポイント、知っておくともっと映画がわかる韓国情報もありますので、ぜひ参考にしてくださいね!
【追記1】
2020/2/10 アカデミー賞 4部門受賞(作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞)
2020/1/5 ゴールデングローブ賞 外国語映画賞受賞
2019/5/25 カンヌ映画祭 最高賞 パルムドール受賞
(※その他、受賞多数のため書ききれず)
【追記2】『ゲーム・オブ・スローンズ』で有名な米HBOでドラマシリーズ化交渉中
『パラサイト 半地下の家族』あらすじと作品情報
公開 / 時間 / 年齢制限 | 2019 / 131分 / PG12 |
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原題 | 기생충(寄生虫) |
監督 | ポン・ジュノ |
出演 | ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム |
あらすじ | 全員無職だが、仲はいいギテク(ソン・ガンホ)家族。長男ギウ(チェ・ウシク)が名門大の友人に紹介された高額な家庭教師の仕事が、久々にできた唯一の固定収入。 家族全員の期待の中で、パク社長(イ・ソンギュン)の家に向かうギウ。社長の邸宅に到着すると、若くて美しい奥様ヨンギョ(チョ・ヨジョン)がギウを迎えてくれるが…。 まるで正反対の2つの家族が出会った後には、止めることのできない事件が待っていた― |
『パラサイト 半地下の家族』感想:ネタバレなし
映画が終わった直後の正直な感想は、「うーん…」
すごいよかったとか、よくなかったとかの一言で表現できないのです。
観客も鑑賞中に笑いもあり楽しんで見ていたんですが、途中から思いもよらないストーリーに引き込まれ、終わった後は言葉を失っていました。
上映後は本当に「しーん」って感じだったよ
正直、終わった瞬間「カンヌの最高賞を受賞するだけの映画なんだろうか?」という疑問が頭をよぎったものの、見終わった後、この映画についての解釈を議論したくなるんです。
つまりは後を引く映画。
カンヌ映画祭の特徴としてよく言われるのは、
映画としての完成度を大切にしており、高品質・文芸的な作品が評価される傾向にあります。
出典:https://hibino-cinema.com/film-festival/
必ずしもハッピーエンドとはいえない作品が評価されたり、やや一般受けしにくい芸術系、渋い作風を好む玄人目線な一面もあります。
好き嫌いは人によってわかれると思いますが、この作品の独自性と表現というところでカンヌで評価されたのだと思います。(結果、アカデミー賞でも受賞しましたが)
それにしても映画を見終わった後もどう解釈するか話したり、考えさせる力があること自体がすごい映画なのかもしれません。
他の人の考察を聞いて、また見たくなっちゃったよ
韓国での評価
- 観客数1,000万人突破。
(韓国の現在の人口が5,170万人。この映画はR15なので、15~64歳の人口を見ると3,759万人。『アラジン』や『トイ・ストーリー4』、『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』『ライオンキング』のディズニー、ハリウッド系の映画が上映されていた中で、この数字はすごいです。人口は「2019, KOSIS (통계청, 장래인구추계)」参照) - 評価は10点満点で、平均9点の高評価。しかも記者・評論家も平均9点。
(普通は記者・評論家の評価が低くなる映画がほとんど)
好評 | ・最近見た映画の中で一番衝撃的だった ・ある瞬間から映画のジャンルが変わった – 歴代級におもしろい映画 ・新しい歴史が刻まれた気分 ・演技については言うまでもなく、シナリオがとてもユニークだった ・ポン・ジュノというジャンルだ ・シナリオ、演出、俳優、みんなよかった ・ホラー映画でもないのに、どうしてこんなに心臓がドキドキする? ・最高!カンヌ受賞監督に間違いなし |
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不評 | ・不快で残忍な映画だった ・時間が経つほど心苦しくなっていく ・気分が悪く、後味が悪い映画 ・R15ではなく、R19にした方がいい ・家族悲喜劇のように見えても子供連れで見るのはお勧めしない ・おもしろくないし、感動もないし、これが受賞作? |
口コミの中でこの映画をよく表現しているコメント↓↓↓
- サイダーみたいにすっきり爽快なのを期待してたけど、焼酎を3杯注がれた気分だった。1杯目は楽しく、2杯目はめまいがして、3杯目はとっても苦いね。
- 映画と言っても、私にはほとんどドキュメンタリーに思えた。この映画を見てスタンディングオベーションできるなんて、私は胸を押しつぶされて、しばらく立ち上がることができなかった。
鑑賞ポイント5つ
この映画の特長を大きく5つ挙げました。知っているともっと映画を楽しめます。
ネタバレはありません。
全く予想もできないストーリー
『パラサイト(原題:寄生虫)』というタイトル、そして一言であらすじをまとめてしまうと、
『パラサイト(英題)』は、全員無職で半地下の家で暮らすギテク一家(ソン・ガンホら)が、徐々に裕福なパク家に入り込み、寄生していくさまを描いたブラックコメディー。
出典:https://www.cinematoday.jp/news/N0108816
まあ、無職のギテク一家がお金持ちの家へ寄生していって、何か事件が起こるのかな?ぐらいの想像は誰もがすると思います。
でも想像を越えてました!
タイトルも納得。
全く先が読めない展開が続き、すっかりストーリーに没入。
また、鑑賞前に予告編を見てもなんだか奇妙な感じがするだけで、よくわからなかったんですが、映画を見た後になってようやく「あ~なるほど」と理解できました。
ナレーションとかちょっと変じゃない?
1つのジャンルでは語れない
複数のメディアで「ブラックコメディー」と紹介されていますが、確かに最初はそうなんです。けっこう笑えるところもあって、音楽も雰囲気もそんな感じなんです。
でも、あるシーンから雰囲気がサッと変わり緊張感が高まっていきます。
鳥肌たっちゃったよ
そこからのストーリーの吸引力はすごかったです。
ホラーなのか、サスペンスなのか、いやいや社会派なのか、やっぱりコメディ色もあって、一言でくくることができません。
エンタメでありながら、しっかり社会風刺
笑わせながらも、社会問題を感じさせる独特な雰囲気があります。
前半では笑いが多かったので、笑ってすませたことも、後半ではだんだん重くなってきます。
キーワードは「におい」
俳優たちの表情と演出
韓国で誰もが認める名優ソン・ガンホも出演していますが、彼らのコミカルな演技だけでなく、だんだんと込み上げてくる感情が表情によく表れています。
また、そんな湧きあがる感情とともに豪雨、濁流、カオスな状況が大きなうねりを作っていたり、各シーンを引き立てるカット割り、演出がよかったです。
印象に残ったカットがいくつもあるよ
多様な考察ができるおもしろさ
私も映画を見た後、気になって韓国での考察について検索しました。
人によっていろいろな解釈があって、「あのシーンはこんな比喩も含まれてる」とか、「あそこで出てきた〇〇はこういう意味だったのか」とか、なるほど!と思うものが多かったです。
映画の中で、このシーン、このアイテムは必要なのかな?と思ったものもあったんですが、他の人の解釈を見ると、なるほど必要だったんですね。
映画に出てくるアイテム、台詞、どんな行為も何かを表現するためのもので、どれも意味があるものだったんです。
「計画」もよく出てきた言葉。
ソン・ガンホの台詞「計画をたてたら、計画どおりにはいかない」
知っておくといい韓国情報
予備知識なしに見ても充分楽しめますが、知っていたらもっと映画の理解が深まる韓国情報をお伝えします。
半地下の家
日本ではあまり見たことがないですが、韓国には半地下の家(部屋)がけっこうあります。
住むのには条件が悪いですが、家賃が安いのが特長。
もともと北朝鮮の攻撃を避けるための避難場所として作られたもので、それが1980年代の住宅難から住居として使われるようになったそう。
韓国ドラマでも苦労している人や貧困の象徴としてよく出てきます。地方から出てきたばかりの人だったり、ミュージシャンをめざしていたり、、、実際に学生や俳優、練習生など、半地下の部屋を借りている人も多いです。
- 湿気が多く、ジメジメしている/カビが発生しやすい
- 窓が小さく、あまり開けられないので、換気がしにくい
- ほこり、虫が入ってきやすい
- 陽が入りにくい部屋は時間感覚が麻痺する
- 大雨などで浸水する可能性あり
祭壇のようなトイレ
半地下の家が全てこのトイレというわけではないですが、祭壇のように床面よりも上段につくられたトイレも見られます。
下水よりも低い位置に住居がある場合、逆流しないためにこうなっているとのこと。
【追記】2022年8月、ソウル首都圏での記録的な豪雨による洪水で、半地下の住民が死亡したことから、将来的に地下・半地下を住居目的で使用することは禁止される方向。
(実はこうした悲劇は前からくり返されており、禁止案が出ても「他に行くところがない」ということで徹底できなかったのが実状)
台湾カステラ
「台湾カステラ」は2016年秋ぐらいから爆発的に流行って、チェーン店の種類も店舗数も竹の子のように増えたんですが、あっという間に消えてしまいました。
たぶん1年ももたなかったんじゃないでしょうか。
「台湾カステラ」は、韓国外食フランチャイズ産業史上、最も短期間に成功して、衰退した商品という記録を残すことになった。
出典:https://www.sisain.co.kr/?mod=news&act=articleView&idxno=28805
ふわふわ、しっとりして、大きくおいしいカステラということで、一時は行列がすごくて入手困難なほどでした。
台湾カステラがすぐに衰退した理由
韓国は「台湾カステラ」のみならず、もともとお店の入れ替わりが激しく、お店も流行ると短期集中するが、続かない傾向にあります。
よく韓国の人に言われるのは、日本に旅行すると何十年、何百年と続いている老舗のお店が多いということに驚かれますが、それほど韓国では1つのことでずっと同じ家業をしていることは珍しいです。
それは裏を返せば、経済的に安定しないために、とっかえひっかえ職を変えざるを得ないからでしょう。
会社勤めも大企業と中小企業の格差が大きいため、年をとって中小企業で苦労するならと定年になる前に会社を辞めて、何かお店を始める中年男性が多いとのこと。(チキンのお店もかなり多い)
そうしたこともあって、爆発的にブームになった「台湾カステラ」に飛びついた人も少なからずいたことは容易に想像できます。
【参考:台湾カステラがすぐに衰退した主な理由】
1.参入障壁が低かった
(卵・小麦粉・牛乳程度のレシピにオーブンがあれば、誰でも1週間ほど学んで作ることができた)2.瞬く間にあまりにも多くの類似のフランチャイズが乱立した
(お互いに過当競争に突入して共倒れ)3.ブーム中に鳥インフルエンザで卵の価格が急騰してマージン率が落ちた
4.チャンネルA 『食べ物 Xファイル』が、台湾カステラの原材料について批判した
出典:https://www.sisain.co.kr/?mod=news&act=articleView&idxno=28805
(卵・小麦粉・牛乳・砂糖の他には何も入れないと公表されたものとは違って、食用油と添加剤を使用していることを放送)
最後に:これから『パラサイト 半地下の家族』を見る方へ
ここまで『パラサイト 半地下の家族』についてざっと紹介してきましたが、いかがでしたか?
映画の内容はカンヌやアカデミー賞で受賞しただけあって、世界中の人が理解できる普遍性もありますが、一方でいかにも韓国らしい情景や、方言、笑いもあります。
実は映画のエンディングロール、最後の最後に流れる曲はポン・ジュノ監督が作詞して、ギウ(チェ・ウシク)が歌っているんですが、なんとこちらも当初アカデミー賞主題歌賞のショートリストに挙がっていました。
残念ながらこれは正式ノミネートにはなりませんでしたが、歌っている本人もびっくりしていましたよ(笑)
タイトル:”A GLASS OF SOJU”(焼酎一杯)
ぜひ、最後まで楽しんで見てみてくださいね。
パク・ソジュンも登場するよ!