主人公を演じるユ・アインのセリフが全くないことで話題になった作品。
しかも新人女性監督の初長編、低予算、オリジナル脚本でありながら、ユ・アインやユ・ジェミョンが出演を決めるとは、どんな魅力がある作品なんでしょう?
(監督と全く面識もないのに、2人とも1週間もしないうちに快諾したそう)
映画好きの心をくすぐられますね…
それでは、一足先に韓国で鑑賞した『声もなく』を見た感想、見どころをネタバレなしでお伝えします!
韓国で最も権威のある「第41回 青龍映画賞」
- 主演男優賞:ユ・アイン
- 新人監督賞:ホン・ウィジョン
韓国のゴールデングローブ賞といわれる「第57回 百想芸術大賞」
- 最優秀演技賞(男優):ユ・アイン
- 監督賞:ホン・ウィジョン
『声もなく』あらすじと作品情報
公開 / 時間 / 年齢制限 | 2020 / 99分 / G |
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原題 | 소리도 없이(声もなく) |
監督 | ホン・ウィジョン |
出演 | ユ・アイン、ユ・ジェミョン、ムン・スンア |
あらすじ | 犯罪組織の下請けで、勤勉で誠実、かつ専門的に仕事をするテイン(ユ・アイン)とチャンボク(ユ・ジェミョン)。 ある日、常連の顧客だった室長ヨンソクの依頼で、誘拐された11歳のチョヒ(ムン・スンア)を無理やり預かることに。 ところが翌日そのヨンソクが始末されてしまい、二人は思ってもみなかった事件に巻き込まれていくー |
『声もなく』感想:ネタバレなし
この記事を書いていながら言うのも変ですが…、
これから映画を見る人は、あらすじも予告編も見ず、何の情報もなく見た方が映画のよさを味わえるはず。(予告編はやや見せすぎ感あり)
というのも、この映画のおもしろさは犯罪映画でありながら、とても明るくのどかな雰囲気で進行していく独特さにあるからです。
まじめに働く平凡な人が、生計を立てるためにしているのが犯罪に関わる仕事であるものの、田舎の青い空の下、トラックに乗っていく風景なんかはまるでヒューマンドラマ。
映画を見ながら「今なんの映画を見てるんだっけ??」と自分でもわからなくなるぐらい、今までにない設定やちょっとおかしいシュールな場面が魅力。
善悪の価値観もあいまいでよくわからなくなってくるし、次々に当たり前のように展開していく思ってもみない状況がよく考えるとおかしいー(笑うとこじゃないんだけど)
特にオープニングの3分はおもしろく、卵を売るのと同様に裏稼業もまじめに黙々とこなし、ヤクザとも会社の取引先のように愛想よく対応する。
犯罪とはまるで無関係のような日常がそこにあるんです。
このギャップが独特で新鮮なゆえに、ユ・アインら俳優たちもシナリオに魅了され、これだけの賞を獲得しているのでしょう。(まさに賞うけしそうな映画です)
新しい感覚を持った新人女性監督の誕生にエールを送りたいですね。
一方で犯罪映画だと期待して見ると感覚的にまるで違うし、何かすごい結末があるわけではないので、正直つまらなく感じる人も少なくないかも…。
私も途中で、「これどうやってまとめるんだろう?」なんてふと余計な心配をしちゃうくらい先が見えなかったんですが、どうやらこの映画は展開が重要なのではなく、声もない者がさらされていく状況を見せることが重要だったんじゃないかー
セリフが一言もないにもかかわらず、ちょっとした表情や動きだけで表現したユ・アインの画面の吸引力はすごかったし、誘拐された子役も、ある意味自由に話せない状況で心境が伝わってくる演技もとてもよかったです。(そしてこの2人の奇妙な交流も)
なにせ映画が終わって心に残ったものといえば、青い空に緑の田んぼ、そしてユ・アインの仏頂面とウサギのお面。
社会的に見放された者たちの声に出すこともない日常。
映画は極端な例だとしても、実際に善悪があいまいで声もなく過ごしている日常がすぐ近くにもあるのかも…
時間も99分と短めなのでサクッと見られますが、「ここで終わっちゃうのかー」っていうはっきりしない感じが玄人向け。
今までとは全く違う犯罪映画が見たい、ミニシアター系が好きな人におすすめの映画です。
鑑賞ポイント
『声もなく』をもっと楽しめる鑑賞ポイントをお伝えします。ネタバレはありません。
ユ・アインのセリフのない演技
ユ・アインといえば、ドラマに映画にとても個性的な役で話題になることが多く、同時に多くの賞を受賞している実力派でもあります。
多くの代表作がありますが、韓国で観客動員1,300万人を超えた映画『ベテラン(2015)』が一番彼らしいイメージかもしれません。
最もヒットした作品なので、このイメージが強いのかも
このユ・アインが坊主頭、15kg増量してのぞんだのが『声もなく』。
しかもセリフが一言もないとくる!
でも、確かに彼が相づちを打っているのが聞こえたような気がするんだけど…空耳?それともユ・アインの演技がすごすぎるのか?ーなんて場面もありました。
これもまた、相棒役を演じたユ・ジェミョンが、全く話さないユ・アインを代弁して口数が多く、相手の返事がなくても長年普通にかけあってきた空気をうまく醸し出しているところもすごいんです。
ともかく、どんな演技をしてくれるのかお楽しみに~!
善悪があいまいで皮肉な設定
感想でも書きましたが、この映画は普通の犯罪映画とは全く違う雰囲気で、まるでヒューマンドラマのような音楽、色、イメージなのに、内容は犯罪行為なんです。
そうした背景だけでなく、登場人物たちもいい人なのか悪い人なのかよくわからないんです。
平凡でまじめに働いている人が、犯罪行為を手伝っていたり、
いかにも悪いヤツだと思っていたら、人を助けたり…
これもどうやら監督の意図的な仕掛けなんですが、自分の善悪基準や偏見に気づかされ、ハッとするかもしれませんよ~。
けっこう見た目で判断しちゃうよね…
韓国での評価
観客数:40万人
評価(10点満点):観客 7.83点(253人)、記者・評論家 7.00点(7人)、ネチズン 5.92点(4,922人)
好評 |
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不評 |
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けっこう好き嫌いがわかれるね
最後に:監督の意図を知るとさらにおもしろい
映画を見終わった直後は、今までにない独特な映画だな~ぐらいだったんですが、
監督が何を描こうとしたのか気になって、韓国のインタビュー記事を調べていたら、ただ映画を見ただけではわからなかった意図がわかって、また映画を見てしまいました~。
監督の意図がわかるとすごくおもしろいです!!
映画を見たら、ぜひチェックしてね~