世界の映画祭で100個近くの賞をとって話題になった『ミナリ』は、監督が韓国系アメリカ人、ブラッド・ピット率いる製作会社”プランB”が制作した映画。
正確にはアメリカ映画なんですが、セリフの約80%が韓国語で、主な俳優たちも韓国系アメリカ人か韓国人。
しかも、前年の『パラサイト 半地下の家族』に続き、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞を受賞、アカデミー賞も作品賞をはじめ、6部門にノミネートされました。
結果は祖母を演じたユン・ヨジョンが助演女優賞を受賞、韓国人俳優として初のオスカー!!
すごい~!!
それでは、『ミナリ』の感想と見どころ、知ってるとおもしろい韓国情報をネタバレなしでお伝えします!!
『ミナリ』あらすじと作品情報
公開 / 時間 / 年齢制限 | 2020 / 115分 / G |
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原題 | Minari = 미나리(ミナリ) |
監督 | リー・アイザック・チョン(チョン・イサク) |
出演 | スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョン |
あらすじ | 見知らぬアメリカの地、アーカンソー州へ引っ越してきた韓国人一家。 家族に成功するところを見せたい父ジェイコブ(スティーヴン・ユァン)は、農場を耕し始め、母モニカ(ハン・イェリ)もまた仕事を探している。 まだ幼い子供たちのためにモニカの母スンジャ(ユン・ヨジョン)が一緒に暮らすようになり、袋いっぱいに唐辛子粉、煮干し、韓薬、セリの種を持って到着する。 大人びた長女アン(ネイル・ケイト・チョー)といたずら好きで末っ子の息子デビッド(アラン・キム)は、祖母らしくないおばあちゃんが気に入らない… 新しい土地で生きていく、ある家族の物語― |
監督の自伝的作品なんだって
『ミナリ』感想:ネタバレなし
知らないうちにスッーっと涙が流れる、静かに心揺さぶられる映画でした。
すごく泣けるわけでも、すごく感動したわけでもないんだけど、しばらくぼーっと余韻にひたっていたくなるような。
終盤、おばあちゃんが家族を見つめるあのまなざし…もうどうしてこんなに胸が熱くなるのか説明がうまくできません。
まるで神様が人間を見守るような、何とも言えないまなざしなんです。
人がほとんどいない田舎が舞台なので、登場人物も限られていて、何かものすごいことが起こるわけでもなく、正直、地味といえば地味なんですが、程よく笑いもあり、「えっ、もう終わっちゃうの?」と思うほど、すっかり時間を忘れてストーリーに入り込んでいました。
説明もほとんどなく、広大なアメリカの大地、草、太陽、空などを背景に、人間の普遍的な営みといったらいいのか、何か根源的なものが伝わってきます。
信じること。信じてみること。
特に存在感が強かったのが、おばあちゃん。
韓国からタイトルとなるミナリ(セリ)の種を持ってきたんですが、どこでもよく育ち、キムチにもチゲにも何にでも料理でき、誰でも採って食べられるし、薬にもなるミナリは愛や希望の象徴のよう。
映画を見た今なら、監督がゴールデングローブ賞の受賞コメントで話していた内容がよくわかります。
監督は「やっかいな側面も含めて、家族というものが自分にとっていかに大切かを、幼い娘に語り継ぎたいと強く感じた時に、本作を着想した」と、本作の製作意図を語っていた。
出典:「ミナリ」チョン監督 製作のきっかけとなった娘と登場 ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞受賞
慣れない場所で、数々の問題に直面しながらも、家族みんな一緒ならまた始められる―そんな静かな希望をくれる良作。
映画としておもしろさや何か大きな刺激を求めている人にとっては、つまらないかもしれません。
でもその表面上の穏やかさの下に多くの濁流と年月があり、映画として澄んだ表現になっているのを感じます。
きっと刺さる人にはすごく刺さる映画。
コロナ禍で慣れない仕事、慣れない環境で問題に直面している世界の人たちに、この映画が小さくても確かな希望の力をくれるんじゃないでしょうか。
家族みんな一緒なら、また始められる―
ほとんど韓国語だった映画のエンディングロールで、”エグゼクティブ・プロデューサー ブラッド・ピット”と名前が入っているのを見て、なんだか感慨深かったです。
見終わった後、しばらくぼーっとしてたよ
韓国での評価
観客数:113万人
評価(10点満点):観客 8.31点、記者・評論家 7.58点、ネチズン 7.57点
思っていたよりけっこういい点数。
好評 |
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不評 |
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やっぱり人によって感じ方は違うよね
鑑賞ポイント
『ミナリ』で楽しめる鑑賞ポイントをお伝えします。ネタバレはありません。
個性的で演技派の俳優たち
第93回アカデミー賞では、主演男優賞、助演女優賞にもノミネートされました!
ユン・ヨジョン
祖母である”スンジャ”を演じ、もうすでに世界の映画賞で28冠を達成、加えてアカデミー賞 助演女優賞受賞は韓国人俳優として初のオスカーです!
感想でも書きましたが、このおばあちゃんの最後のまなざしが本当にいいんです!
きっと各映画賞でも、あのまなざしが脳裏に残ったんじゃないでしょうか。
ポン・ジュノ監督と『ミナリ』についてインタビューしていたのを見たんですが、シナリオを数ページ読んだ時点で、出演を決めたそう。
内容がとてもリアルで、これは監督の自伝か聞いたらそうだというから決めたとのこと。
また、実存した監督のおばあちゃんとは関係なく、好きにしていいと言われたのがよかったと言っていました。(チョン監督曰く、全然似てないとのこと…)
映画ではブロークン・イングリッシュで笑わせてくれますが、本人は海外ロケのバラエティー番組をいくつもしてきたほど英語は堪能。
英国アカデミー賞で助演女優賞を受賞した時も、イギリス人をsnobbishと表現したり、アカデミー賞でも、発表者でもあり『ミナリ』の製作者でもあるブラッド・ピットに「映画を撮っている時、どこにいたんですか」とジョークを言ったり、
とにかくいろいろと受賞コメントが話題になるくらいで、ユーモアがあって、率直なヨジョンさんの性格がよく表れていました。
『ユンステイ』でパク・ソジュンやチェ・ウシクたちと外国人をもてなすバラエティー番組もやってたよね~
スティーヴン・ユァン
アメリカドラマが好きな人は『ウォーキング・デッド』で、韓国映画が好きな人はイ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』、ポン・ジュノ監督の『オクジャ』で顔を知られていますね。
『バーニング』では、とらえどころのない独特な役でしたが、今回はよりリアルで堅実な役。
しかも、アカデミー賞 主演男優賞へノミネートされました!(アジア系初)
一見、本人そのものの役のように見えますが、英語ネイティブの本人とは反対に映画では韓国語ネイティブなため、言葉の苦労が多かったよう。(韓国語がすごくうまくなったと好評)
『ミナリ』ではエグゼクティブ・プロデューサーの一人でもあり、アメリカでアジア系の話はあまり扱われないので、外部の人が手直ししないように一緒に守りたい思いからしたとのこと。
アメリカでは当初、韓国映画として位置づけされるところだったようですが、そうした次元を越えて、韓国人でも、アメリカ人でも、韓国系アメリカ人でもなく、ただ人間に関する話を作るのが目標だったそう。
共演した仲なので、「イ・チャンドン監督よりおもしろかった?」とかずばり聞いたりしてておもしろかったよ~
ハン・イェリ
一度見たら忘れられない顔と存在感。
胸に秘めた想い、何か芯のある役がぴったり。
今回の『ミナリ』では、2021ゴールドリスト授賞式で主演女優賞を受賞、実は米メディアが選定した”オスカー主演女優賞候補ベスト5”にも挙げられていたほどだったんです。
結果は残念だったけど、すごい~!!!
それだけじゃなく、映画のOST(オリジナルサウンドトラック)で、彼女自身が作詞し、歌っている”Rain Song”がアカデミー賞主題歌唱部門に1次ノミネートされていたんです。
たぶんエンドロールの歌だと思うんですが、「誰が歌ってるんだろう?」って思ったのは彼女だったんですね!
ポン・ジュノ監督がプロデュースした『海にかかる霧』にも出演してるよ
驚くべき子役
アラン・キム、ネイル・ケイト・チョー、子役の二人もまるで素のように自然な演技。
特に息子のデビッドを演じたアランは、とても初めての演技とは思えないほど。
リー・アイザック・チョン監督の自伝的なストーリーなので、このデビッドが昔の監督なんだなあ…
デビッド、すごいかわいい~
心に残るアメリカの広大な風景
久々に映画館で見たせいか、よけいに映像の美しさ、アメリカの大地の広さを感じることができ、説明がなくてもその映像で理解してしまうような力強さがあります。
俯瞰で見る農地、遠くの森から出てくる太陽、風にそよぐ草…
できれば映画館の大スクリーンで堪能することをおすすめします。
知っておくといい韓国情報
予備知識なしに見ても充分楽しめますが、知っていたらもっと映画がわかる韓国情報です。
韓国式の子供のお仕置き
一般的なのが、正座で手を上げ続けること。
両手をいいと言われるまでずっと上げていなければいけません。
しかもグー(韓国では挙手するときに手のひらをパーじゃなくてグーで上げます)
あともう一つ、昔からあったのが歴史ドラマでもちょくちょく見る、細い棒でふくらはぎを叩かれること。
『宮廷女官チャングムの誓い』や『皇后の品格』にも出てくるんですが、これは相当痛そう…。
唐辛子
赤い唐辛子は韓国語で고추(コチュ)
それを乾かして粉にしたものが唐辛子粉、고춧가루(コチュカル)で韓国料理には欠かせないものです。
キムチにもチゲにも、赤い色の料理にはぼぼ唐辛子粉が入っていて、海外生活をする韓国人にとってはとっても貴重。
それだけ韓国の生活に根付いているもののせいか、韓国では「おち〇ちん」を고추(コチュ)といいますw
日本語字幕ではどう訳されるのかな?
最後に:ポン・ジュノ監督も好きな『ミナリ』
旋風を起こした『パラサイト 半地下の家族』の次に続く期待作として話題になりましたが、家族が題材とはいえ、作品としては全く違います!!!
ポン・ジュノ監督はインタビューで、自分もこんな温かい映画をつくってみたい、この『ミナリ』の監督に負けないようにとライバル心を燃やしていましたが、同時に「自分が描いたら血が流れたり別のものになっちゃう…」なんていってました笑
ぜひ世界で注目を浴びた本作も見てみてくださいね!
新しいスタートをする春にぴったりの映画かも