私、エイリアンとか怪獣系とか、あんまり好きじゃないんですよね…
それで『グエムル-漢江の怪物-』が有名なのはわかっていても、なかなか手がでないでいたんですが、見てみたら
すごくおもしろいじゃないですか!!
なんでもっと早く見なかったんだろう…

出典:NAVER영화:괴물
たぶん私のようにタイトルとイメージから敬遠している人もけっこういるんじゃないでしょうか。
でも、今は自信をもっておすすめします!
この記事では、どんなところがおもしろいのか、韓国在住の私が韓国情報もふまえてネタバレなしでお伝えしますね!
”グエムル”は韓国語で”怪物”の意
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『グエムル-漢江の怪物-』のあらすじと作品情報

出典:NAVER영화:괴물
公開 / 時間 / 年齢制限 | 2006 / 119分 / R12 |
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原題 | 괴물(怪物) |
監督 | ポン・ジュノ |
出演 | ソン・ガンホ、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、ペ・ドゥナ、コ・アソン |
あらすじ |
日当たりの良い平和な漢江(ハンガン)で、父(ピョン・ヒボン)が運営する売店で店番をしているカンドゥ(ソン・ガンホ)は、またいつものように昼寝をしている。 中学生になった娘ヒョンソ(コ・アソン)が帰ってきたが、娘はずいぶん怒っている。取り出すのも恥ずかしい古い携帯電話と、授業参観に酒臭い叔父(パク・ヘイル)が来たからである。 ヒョンソが売店で叔母(ペ・ドゥナ)の国体アーチェリー競技に没頭して見ていると、外では何やら人がザワザワ集まっている。イカをお客に出しに行ったカンドゥも、たまたま人だかりの中で特異な光景を目撃することになる。 何かが漢江の橋にぶら下がっていたが、正体不明の怪物は、急に土手にあがって人を踏みつぶし、無差別に襲い始めた。あっという間に修羅場に変わる漢江。 カンドゥも一歩遅れて娘ヒョンソを連れて夢中で逃げていくが、悲鳴を上げて逃げまわる人の中で、しっかり握っていたヒョンソの手をはなしてしまう。 その瞬間怪物は待っていたかのように、ヒョンソをひっさらって悠々と漢江に消えていった… |
『グエムル-漢江の怪物-』を見た正直な感想
いや~おもしろかったですね。
ポン・ジュノワールドが炸裂してます!これこそ監督の原点がつまってますね。
漢江(ハンガン)に巨大な怪物が出現するっていうのを、映画の最初っからバンバン見せてくれるし、アメリカへの皮肉たっぷりだし、韓国らしさもてんこ盛りで、ホラー・パニック映画かと思いきや、けっこう笑えてしまうし、社会風刺もしっかり入っているし。
この作品はもっと評価されてもいいんじゃないでしょうか。
今までどうして見なかったんだろう、もっと早く見ればよかったです。
個人的にゴジラやエイリアン系は話の展開がパターン化してしまっている印象もあってあまり見ないんですが、この『グエムル』は先が全くどうなるかわからないんです。
ゴジラだったら国家 vs ゴジラのように、主人公がいたとしても所属する機関や集団が団結して戦うんですが、『グエムル』は普通の一般市民、いや社会的には落ちこぼれている家族が、国や警察とも戦い、怪物と正面対決せざるを得なくなるという…

出典:NAVER영화:괴물
そこへアメリカも入ってくるし、怪物だけじゃなくウイルス感染の危険もあったりと、あっちもこっちも”てんやわんや”なんですが、緊張感とコメディの緩急が入ってあっという間に2時間たってしまうんです。
今までポン・ジュノ監督の作品はアカデミー賞で4冠をとった『パラサイト 半地下の家族』をはじめ、いくつか見てきたんですが、『グエムル』が一番わかりやすく、エンターテインメントとしておもしろいんじゃないでしょうか。
どの作品にもよさがあり、甲乙つけがたいんですが、衝撃的な展開と考えさせられる余韻を残した『パラサイト 半地下の家族』、『母なる証明』、どこまでも暗く残虐でやるせなかった『殺人の追憶』、ユニークな設定に残虐さとブラックコメディがつまった『スノーピアサー』、それらのいいところが『グムエル』にはバランスよく入っています。

出典:NAVER영화:괴물
『グムエル』の怪物自体はB級っぽいのに、画面の作り方が洗練されていて、今見ても十分楽しめます。怪物の怖さをクローズアップの顔で表現した俳優たちの演技のよさ、演出のよさかもしれません。
怪物映画のようでいて、家族の物語、韓国社会の現実を描写した映画です。
韓国での評価
観客数:1,092万人(NAVERでの数値。各種記事では1,301万人とされています)
評価は10点満点で、ネチズン8.6点、記者・評論家8点となかなかの高得点
評価、口コミ出典:NAVER영화:괴물
好評 |
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不評 |
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知っておくといい韓国情報と解説
予備知識なしに見ても充分楽しめますが、知っていたらもっと映画がわかる韓国情報です。
韓国らしい情緒
血のつながりが濃い
どの国でも血縁は重要ですが、特に韓国ではかなり濃いです。
私もそうは聞いていたものの、実際に韓国に住んでみて実感。日本で家族というと核家族や一緒に住んでいる家族のイメージですが、韓国ではもっと範囲が広い感じです。(もちろん家族によって差はありますが)
日本では親戚のおじさん、おばさんとはいいつつも他人行儀な感じですが、韓国ではもっと身近でいろいろ口出しするし、例えばおじさんが結婚したら伯父は「大きいお父さん」、叔父は「小さいお父さん」と呼ばれるようになるんですよね。
この映画でも、カンドゥの娘ヒョンソにとって叔父、叔母にあたるナミルとナムジュは一緒には住んでいないものの、まるで自分の子供に接するような感じでしたね。
感情を表に出す

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日本では、”長い物には巻かれろ”的な考えや”事なかれ主義”で人前で泣いたり騒いだりすることを避けようとしますが、韓国では、相手が誰であろうと自分の主張をしたり感情を出す人がけっこう多いです。
私も韓国へ来てはじめて、大人同士が口争いのケンカをしているのを見てびっくりしました。
もちろん映画的に誇張されている面もありますが、ある意味悪口のようなことでも家族だろうが言いたいことをいい、それでも憎まれ口も愛情になってしまうようなところが韓国らしいです。
食事が何より重要、みんなで分け合う
「ご飯食べた?」
これが韓国でよく聞かれる挨拶です。
いっしょに食べようとかそういう意図ではなく、昔から戦争が多かった韓国では相手がちゃんとご飯を食べたかを気遣う文化があるんだそうです。
また、何か食べる時には必ずいっしょにいる人と分けて食べます。(例えば日本人が会社のデスクで個人的にお菓子を食べたりするのはびっくりされる)

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映画でもさらわれたヒョンソがご飯を食べたかどうかが家族団結して戦う決意をするモチベーションになります。
ヒョンソを探す中で家族がようやく食べ物にありついた時、ここにはいない家族にもいっしょに食べさせてあげたい気持ちがよく表現されていました。
この映画の時代背景
韓国は1960年半ばから1990年までの約25年で「漢江の奇跡」と言われる経済発展を成し遂げ、世界10位圏の経済大国となりましたが、
1997年の通貨危機=国家破綻の危機で金融システムが麻痺し、大小かかわらず会社の倒産が相次ぎ、多くの人が露頭に迷うことになりました。
2000年に入って通貨危機からは脱したものの、財閥・大企業が海外進出して成長しても韓国国内では雇用が増えず、所得格差が広がり、若者の失業率も高くなりました。
この『グムエル(2006)』に出てくるナミルも大卒のプー太郎で、そんな時代の若者の1人でした。

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また韓国は1987年に民主化しましたが、それまで武力政権と市民が闘ってきた歴史があり、最近でも朴槿恵(パク・クネ)元大統領をやめさせたように、政府や警察に囲まれようとも大多数のデモによって歴史をかえてきた市民の”力”があります。
ナミルが火炎瓶を大量につくる場面がありますが、火炎瓶は民主化運動で最もよく使われた市民の武器であり、きっとナミルも昔作ったことがあるにちがいありません。
アメリカに関する事象
監督はインタビューで明言していますが、ウイルス関連の話はイラク戦のことを、映画中でアメリカ軍が散布した「エージェント・イエロー」はベトナム戦争で散布された枯葉剤の「エージェント・オレンジ」からきています。
特にオープニングシーンの出来事は2000年に起こったマクファーランド事件のことで、米軍が毒劇物を大量に漢江に無断放流しました。(その後もいくつか在韓米軍の汚染事件あり)

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映画ではこの事件からグムエル、怪物が生まれたことになっています。また、こうした状況にもかかわらず韓国政府がアメリカの言われるままになっている…そんなシーンを見つけられるはずです。
ポン・ジュノ監督らしい結末
『パラサイト 半地下の家族』の結末についてポン・ジュノ監督がこう話していました。
曖昧な希望をのせるのがむしろ無責任に感じられて、この悲しみに直面しようとした
アメリカのパニック映画や日本の怪獣映画もハッピーエンドになることが多いですが、この映画もポン・ジュノ監督らしいリアルなエンディングでした。
韓国男性は銃の取り扱いに慣れている

出典:NAVER영화:괴물
韓国では今でも男性に兵役の義務があります。
昔に比べたらだいぶ期間が短くなったようですが、それでも1年半~2年ぐらいは人気アイドルでも軍隊へ行かなくてはいけません。
除隊後もしばらくは1年に数回招集され、再訓練(半日~3日)を受けるほどなので、銃の取り扱いや戦う術は基本的に身についているとのこと。
日本人の感覚だと映画を見て、なんで一般市民が急に銃を使えるんだ?と思いがちですが、韓国ではあり得る話です。
今も漢江にグエムルがいる!
なんと映画でグエムルのアジトがあった”원효대교”の近くにグエムルのオブジェがあります。

写真だとわかりにくいですが高さ3m、長さ10m、重さ5トン。
もしソウルで漢江に行くことがあったら、ぜひ行ってみてくださいね!
最後に:『グエムル-漢江の怪物-』本当の敵は何なのか
真っ昼間の漢江にいきなり怪物が出現するという設定ではありましたが、怪物が出現することで当時の韓国をとりまく現状を厳しく風刺していました。
怪獣映画のホラーも味わいつつ、家族の物語であって、コメディも入っておもしろく、そしてスパイスが効いた社会風刺もしっかり入って…と、このいろんな要素を緩急つけておいしく仕立て上げた監督はすごいとしかいいようがありません。
きっと人それぞれ何か感じるところがあるはずなので、ぜひ見てみてくださいね!
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