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『パラサイト 半地下の家族』白黒版を公開する理由:なぜ今モノクロか?

『パラサイト 半地下の家族』白黒版を公開する理由:なぜ今モノクロか?

ポン・ジュノ監督、そして映画『パラサイト 半地下の家族』は歴史を変えましたね!

この記事まで読んでくださっている方は、かなりこの映画について詳しい方だと思いますので、既知の情報はバッサリ省きます!

アカデミー賞のニュースに続けて入ってきたのが、『パラサイト 半地下の家族』の白黒版についてで、韓国で2月26日に公開確定し、ポスターと予告編が公開されました。

合わせてこんなイメージも!モノクロだとゴールドがよく映えますね。
(アカデミー賞のそれぞれ作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞)

パンダ夫人
パンダ夫人
えっ?白黒??

パンダ夫
パンダ夫
内容同じなんじゃないの?

内心そう思った方も多いんじゃないでしょうか。

実は私も最初そう思ったんですが…、ポン・ジュノ監督のビハインドストーリーを聞いているうちに、いやいやそう決めつけるのはもったいない!見に行かないと!!と気が変わりました。

この記事では白黒版を見るべき理由をお伝えします。

パンダ夫人
パンダ夫人
韓国在住だから、公開されたら見に行くよ!

『パラサイト 半地下の家族』白黒版のポスター

雰囲気が全然違いますね。ここでも受賞したゴールドがよく映えます。

カラー版でも十分にインパクトがあるポスターで、緑の芝生や横たわる白い足、カラフルなボールなど、明るい平和な色合いの中にも足や目隠しなどが奇妙で独特な味を出していました。

>>>『パラサイト 半地下の家族』ネタバレ解説2:なぜポスターは目を隠しているのか

これが白黒になって表情も全くもって読み取れなくなり、コントラストが高い白い足に否応なく目がいくようになりました。

その場面にある感情が全て洗い流されて、事実だけが整然とあるーそんな状態を感じます。

白黒版のキャッチコピーは

「白と黒、越えられない線はない」

パンダ夫人
パンダ夫人
このコピー、監督の意思がこもってるよね

『パラサイト 半地下の家族』白黒版の予告編

映画を見た方なら同じ内容だとわかると思います。

でも印象が違いますね。一気になんだか古典の作品になったような…

予告編では新しいコピーが挿入されています。

「韓国映画101年、新しい歴史を刻む」

「白と黒、より強烈に出会う」

パンダ夫人
パンダ夫人
陰影がついて、カラーで見ていた時とは視線がいく場所が違うね~

ポン・ジュノ監督が白黒版を作った理由

では、この時代にどうしてポン・ジュノ監督は白黒版を作ったのでしょう?

臭いの表現

まずはカラー版と白黒版、いったい何が違うのか見ていきましょう。

予告編を見て感じた方もいるかもしれません。白黒になるとカラー情報が一切入ってこないので、コントラストではっきり見える人の顔、表情に目がいきませんか?

白黒の場合、人物の繊細な感情表現により集中できるといわれています。

今までの監督インタビューでキーとなる”臭い”について、「映画は音とイメージに関するものであって、臭いを伝えるのは簡単ではない」と言っていますが、

(監督は)「観客は登場人物の言葉を介して嗅覚の刺激を受けるが、白黒映画では俳優に集中することになり、臭いをより強く感じることができる」と述べた。臭いが映画の展開に重要な役割をする『パラサイト 半地下の家族』には白黒画面がよく合うという主張だ。

出典:봉준호 감독이 ‘기생충’ 흑백판 만든 건 냄새 때문?

白黒版はカラー版よりもっと俳優の演技に集中して、人物の内面深くまで感じることができそうですね。鑑賞後にカラー版とはまた違った余韻に浸れそうです。

韓国のニュースによると、ポン・ジュノ監督は古典映画の雰囲気が出る白黒のフィルムを好んでいることで知られています。過去に『母なる証明』でも白黒版で上映されたこともありました。

『パラサイト』の白黒版でもポン・ジュノ監督が直接、場面ごとにコントラストとトーンを調節するほど愛着を持っていることが伝えられています。

パンダ夫人
パンダ夫人
白黒版も楽しみだね!

夢とオマージュ

カラーの時代を超えて3D映画が流行して10年経った今、なぜ白黒映画なのか。

『パラサイト 半地下の家族』の北米配給会社NEONの発表によると、白黒の映画は、ポン監督の長年の夢であった。 『パラサイト 半地下の家族』が昨年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した直後、白黒版が完成した。モノクロへの変換コストは1,000万ウォン程度だった。(約100万円弱)

ポン監督はロッテルダム映画祭の上映会の後、観客との対話で「黒澤明、ジャン・ルノワール、ジョン・フォード、アルフレッド・ヒッチコックのような巨匠が白黒映画を作った時期があった」と言い、「私たちの世代は、古典映画を白黒だと思った」と述べた。彼は「私の映画を白黒にしたら、古典映画になるんじゃないかというくだらない考えが浮かんだ」と付け加えた。

出典:봉준호 감독이 ‘기생충’ 흑백판 만든 건 냄새 때문?

(※注記:1月29日、ロッテルダム映画祭で『パラサイト 半地下の家族』の白黒版が、世界で初めて上映された。)

先日のアカデミー賞のスピーチでも、ポン・ジュノ監督がマーティン・スコセッシ監督をはじめ、一緒にノミネートされていた監督たちを称える場面が感動的でした。

スピーチでも触れているように、ポン・ジュノ監督は学生の頃からマーティン・スコセッシ監督の作品も研究し、その言葉を今でも心に刻んでいます。

今まで受けた数多くのインタビューでも、尊敬する監督や影響を受けた監督の名前を何人か挙げていましたが、いつも必ず出てくるのが、韓国のキム・ギヨン監督でした。

キム・ギヨン 金綺泳 김기영
1919年、ソウル生まれ。高校卒業後に京都に留学経験あり。国立ソウル大学医学部卒業で医師の資格を持つ。1955年『屍の箱』でデビュー。以来、30本を超える作品を発表。初期の作品は戦時下や戦後の社会を描いたリアリズム調のものが多いが、1960年の『下女』以降、人間のエゴイズムに潜む魔性の美を追求する独自の作風を確立。近年、再評価が進み、1997年の釜山国際映画祭でレトロスペクティヴが組まれ、カンヌ、ベルリン、シネマテーク・フランセーズなどでも作品が上映されている。スコセッシやパク・チャヌクなど映画人からの熱烈な支持も多く、韓国映画史上の怪物と称される

出典:生誕100年記念 異端の天才 キム・ギヨン

もちろんこの監督も白黒映画なんですが、ポン・ジュノ監督は『パラサイト』でもこの監督、特に『下女』の影響を受けていると言っています。

「パラサイト」を見た時、キム・ギヨン監督の「下女」(1960)がすぐに浮かんだ。貧富の格差が描かれている、とか、家政婦(下女)が出てくる、というだけでない。その見せ方だ。視覚的にはっきりと階段や土地の高低でその格差が描かれている。(省略)

「下女」では、中産層の家庭に下女が入り、住み込みで働く。下女は夫を誘惑して関係を持ち、妊娠する。周りに知られて職を失うことを恐れる夫婦は、下女の言いなりに。下女が2階に暮らし、妻は1階で下女のように働くという立場の逆転が起こる。映画の中で起こる多くの事件は階段が舞台だ

出典:ポン・ジュノ監督「パラサイト」とキム・ギヨン監督「下女」に描かれた韓国社会の「構造」

もうキム・ギヨン監督の『下女』見たくなってきませんか?

残念ながら私はまだ見ていないんですが、『下女』と『パラサイト』の白黒版と比べたらどんなにおもしろいでしょう!!

ここに載せたのは一部ですが、ポン・ジュノ監督の古典作品、巨匠に対する尊敬と、それを追いかけてきた夢が白黒映画にぎゅっと詰まっているのを感じ取れるのではないでしょうか。

パンダ夫人
パンダ夫人
なんとかして『下女』見たいな~

新たな挑戦

思えばポン・ジュノ監督、そして作品『パラサイト 半地下の家族』は多くの壁を越えてきました。カンヌ映画祭を皮切りに、韓国初、アジア初、英語以外の言語で初など、初初づくしでした。

ゴールデングローブ賞で外国語映画賞を受賞した時、監督はこんなことを言っています。

「私たちはただ一つの言語を使っていると思っています。それは映画です。
(I think we use only one language, the cinema.)」

また、「1インチ程度の字幕の壁を越えれば、皆さんがはるかに多くの映画に会うことができる」とも話していました。

アカデミー賞で最も重要な作品賞を、英語以外の言語の作品が受賞したということ自体、まさに言葉の壁を越えましたよね。

そして『パラサイト』がカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した時、韓国映画史100年という節目の年でした。

冒頭で紹介した白黒版の予告編、ポスターに書かれていたコピーをもう一度ふりかえると、

「韓国映画101年、新しい歴史を刻む」
「白と黒、越えられない線はない」

全くの私見ですが、これは尊敬してやまない白黒の古典映画への挑戦であり、これからの新しい時代への挑戦でもあるのだと思うのです。

パンダ夫人
パンダ夫人
なんだかワクワクする~


最後に:『パラサイト 半地下の家族』白黒版もぜひ見てほしい

「白黒版って内容一緒なんじゃない?」とふと思ってしまった私が、「見たい!」に変わった理由をまとめてきましたが、いかがでしたでしょうか。

正直、白黒版の中身をまだ見てないのに、こんなに熱く語ってしまっていいものかと思いましたが…、ポン・ジュノ監督がわざわざ白黒版で出すからには必ず何かあるに違いないとの期待もかなりあります。

私事ですが、昔カラーコーディネートの勉強をしていて、未だに覚えていることがあります。どんな色を使うか考える時、赤とか緑とか、いわゆる色味の違いを重要視しがちですが、実は明度(色の明るさ)が重要だということ。

例えば赤と黄色は両方とも目立つ色ですが、黄色は明るくてグレースケール(白黒の段階)でいうと白に近いんです。赤は意外と暗い色で黄色よりは黒に近いんです。それで黒が背景の場合、白に近い黄色は目立ちますが、赤は黒に近くて目立ちません。

これがわかると色やイメージを自由に扱えるようになるんですが、ただ見ているだけではわかりにくい場合もあり、そこで教えてもらった方法が白黒にすることなんです(例えば白黒でプリントするなど)。そうするとハッキリと明暗がわかります。

今はいろんな技術が発達してカラー表現も豊富です。映画もまた然り。そんな中で白黒で表現をするということは一見後退するように感じますが、理論上、白黒で表現がうまくできれば、カラー表現もうまくできるのです。(コントラストを活用して視線をコントロールしたりもっと表現の幅が広がる)

ポン・ジュノ監督が白黒映画を通して、さらにいろんな表現をしてくれんじゃないかと今後がますます楽しみです。

まずはもう何回も見たカラー版が白黒版になってどう印象が変わるか、実際にこの目で確かめてこようと思います。

パンダ夫人
パンダ夫人
白黒版も楽しみ!

映画をすでに見た方で、詳しい解説を知りたい方は
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