まだ映画を見たときの衝撃が残っていて、もっと映画について知りたい方へ、
韓国在住の私が前回のネタバレ解説に書ききれなかった内容や、調べているうちにわかった制作秘話、韓国人だけがわかるユーモアコードなどをお伝えします。
まだ映画を見ていない方は
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では、さっそく本題へ
ポスターではどうして目を隠しているのか
普通どんな映画でもポスターでは俳優の顔を印象的にしっかり写すものですが、この映画では今までにない目隠しされたイメージで、逆にインパクトがありますよね。
目隠しされたポスターについてポン・ジュノ監督は、
元美術監督出身で現在は映画監督であるキム・サンマン監督がデザインしたもので、見るなりこれは本当にいい!!となった。
人物の目を黒いバーで隠すのは犯罪のにおいがでるし、みんなの存在が無くなる感じもあって、主演俳優の顔を隠してしまうポスターにもかかわらず、俳優の皆さんがとてもクールで、面白がってくれました。
意味はわかりません。もし目を隠していなかったら物足りなかっただろうなという気がします。
[기생충]_이동진의 라이브톡 기생충_with 봉준호감독님
映画製作者、クァク・シネ代表によると、
この映画がポン・ジュノ監督の第2期、最初の作品だという気がした。それで今までの監督のポスターとは違ったものにしたかった。今までが褐色トーンだったり暗かったので、今度は明るくしたかった。
そのようなことをキム・サンマン監督(以前デザイナーとしてポスター製作を依頼した縁で、今回も無理を承知で依頼したとのこと)に伝えると、シナリオを読んで、本人の解釈で届いた試案からすでにこうなっていた。
キム・サンマン監督はどんな人物にも感情移入できないように目を隠したと言っていた。
また、実際に目を隠したままのポスターの試案が来ても、誰もなぜ目を隠しているのかと聞かなかった。ただ創作者としてキム・サンマン監督の意を尊重した。
横たわっている足は、マーケティング会社の社員の足だ。おもしろくなる映画は、偶然が重なって良い方に行く。ポスターもそうだった。
곽신애 대표 “‘기생충’ 봉준호 2기 첫 작품..연대와 응원에 감사
クァク・シネ代表の言うとおり、まさにこの映画は偶然が重なっていい方向へ行っていますよね。
特にポスターは象徴的なイメージ、インパクトを与えるのに十分でした。
この目隠しデザインが妙にはまって、いい味だしてるよね
チュンスクはなぜ砲丸投げの選手だったのか
これは特別な意味はないようですが、夫のギテクが立ち往生したり、たじろいでしまうイメージを考慮して設定されたとのこと。
確かに地下シェルターの夫婦に監視されていた時、一瞬のスキをついてタックルしたのもチュンスクだし、パーティーに乱入した男に向かっていったのもチュンスク。
地下の戸棚を開ける時やテーブルを運んだりと力が必要な役でもありましたね。
チュンスク役のチャン・ヘジンさんはこの配役のために15kgも太ったそう。カンヌでの写真を見ると別人のようですね。(中央の白と黒のドレス)
役作りのためにすごいなあ
登場人物の名前
この映画のタイトルは韓国語で『기생충(寄生虫)』ですが、ギテク家族はみんなここから1字ずつ取って名前が付けられています。
タイトル『기생충(ギセンチュン)』
父 ギテク:기택
息子 ギウ:기우
娘 ギジョン:기정
母 チュンスク:충숙
また、パク社長の奥さんであるヨンギョは、授業を参観したりする役柄のせいか、なんとなく参考書のイメージがする名前とのこと。
韓国人だったら誰でも知っている参考書や学院の感じがするそうです。
こういうニュアンスはネイティブじゃないとわからないね
ギテク家の食事変遷
最初、ミニョクが「水石」を持ってきた時、ギテク家は安い”国産の発泡酒”にスナック菓子がつまみでした。
それがパク社長の家に侵入していってどんどん食事もお酒も豪華になっていきます。”発泡酒”が輸入ビールの”SAPPORO”になり、しまいにはパク社長の家で”洋酒”を好きなだけ飲んでいます。
みんなで”SAPPORO”ビールを飲んでいる時、母チュンスクだけは”発泡酒”を飲んでいますが、これは残したらもったいないという一般的な母親の姿だそうで、これもリアルですね。
食事も最初ギテクが”パン”をちぎって食べていたのが、”食堂”に行ったり、”肉”を焼いたりと変わっていくので、注目して見てみるのもおもしろいです。
ギテク家族が行った食堂は”기사식당(運転手食堂)”といわれるローカルな食堂ですが、食事の時間も不規則で、一人で食べに行くことが多いタクシー運転手のために24時間営業しています。
この時ジェシカ(ギジョン)がパク社長の家にうまく入り込んで、ギテクのことをいい運転手がいると紹介した段階でした。
運転手が利用する”運転手食堂”で食事をしているので、ギウはギテクに「なんとも象徴的だ」と話し、それからギテクが運転手としてパク家に入っていくことになります。
ジェシカソング
ギジョンが”ジェシカ”としてパク社長の家へ訪れる時、玄関で詐欺設定を覚えるために歌で覚えますが、この歌が海外で「ジェシカソング」として親しまれています。
この曲は元々韓国で昔流行った曲で、韓国人だったら(若い人以外)みんな知ってる曲だそう。設定を覚えるために替え歌されていますが、今となっては「ジェシカソング」として世界に知られることになりました。
コメント欄を見ると英語圏の熱気が伝わってくるね
北朝鮮アナウンサーのまね
前家政婦を演じたイ・ジョンウンさんは、ポン・ジュノ監督の10年前の映画『母なる証明』で母親役のキム・ヘジャさんの胸倉をつかんだ人であり、『オクジャ』ではオクジャでした。(つまり声の担当)
『オクジャ』ではYouTubeにある全ての豚の声を分析して、喜怒哀楽を表現する練習をした状態で来たそうです。それで監督も今回のシナリオを書くときにイ・ジョンウンさんがやってくれるという確信をもって思いっきり書いたとのこと。
北朝鮮の朝鮮中央放送の女性アナウンサー、リ・チュニさんは韓国では名前も知られているくらい有名な方なので、日本人でも見覚えがあって笑えるシーンでしたが、韓国人からしたらかなりのツボだったんじゃないでしょうか。
同じハングルでもイントネーションや使う言葉自体がかなり違うね
正座で手を挙げる韓国式のお仕置き
今は昔と違ってあまりお仕置きしなくなったと思いますが…、日本だったら漫画などに出てくるお仕置きのイメージは、「バケツを持って廊下に立たされる」ですよね?(ちょっと古いですけど)
韓国ではそれが「正座で両手を挙げつづける」ことなんです。しかも手はグーです。
(日本人からしたら手のひらがグーというのが不思議な感じですが、韓国では学校などで発言する時にもグーで手を挙げます。)
地下シェルターの夫婦に弱みを握られて、「ボタンを押すぞ~」と脅されていた時、まさにギテク家族はこのお仕置きを受けていたんです。
一見、抵抗しないように手を挙げてる姿のようであまり気にならなかったと思いますが、韓国人からしたら親や先生が子供にお仕置きして反省させる感じなので余計に笑えるところです。
深刻な状況なのに笑いを作ってしまうのが監督のすごいところ
主婦の趣味、ハエまでリアルな舞台美術
どの国でも編み物が好きな人はいますが、韓国では手編みのセーターやマフラーよりも、手軽で実用的な「수세미(スセミ)」を作る人が多いようです。
スセミとはお皿を洗う時の”アクリルたわし”で、専用の糸があって、泡立ちがよく汚れもよく落ちます(洗剤を使わなくてもいい)。100円ショップなどでも売られていますが、趣味で作る人もけっこういて、私ももらったことがあります。
日本の”アクリルたわし”よりも韓国のたわしの方が色が派手でキラキラしていて韓国っぽいですね。
このスセミ、映画の中でもチュンスクが何気に作っています。
後の方をよく見ると山のようなスセミが…。それだけ暇だったんですね。それにしてもスセミを作ったりするディテールの演出が超リアルです。
私もビハインドストーリーの映像を見て始めて知ったんですが、この映画の舞台となる場所はセットで全て作りこまれたものです。(全体の90%)
特にギテク家、またその近所のセットは信じられないくらいリアルで、ガスレンジの油汚れや生ごみ、着古した下着や地下のカビの臭いまでも作り上げて、実際にハエや蚊などがブンブン飛んでるぐらいリアルそのものだったそう。
俳優たちも、町をそのまま持って来たようだったとか、実際に臭いもしたそうで、かなり演技に影響したと言っています。
セットとは思えない舞台美術はすごい!
エンディング曲:焼酎一杯
映画のエンディングロールで最後の最後に流れる曲は、ポン・ジュノ監督が作詞して、ギウ(チェ・ウシク)が歌っていますが、ギウのその後の心境を歌っているんです。
タイトル:”A GLASS OF SOJU”(焼酎一杯)
メロディーは独特で軽快なテンポですが、歌詞にでてくるギウの手のひらや足の裏の描写から苦労している様子が伺え、私の感じたところでは、1人で苦い焼酎を飲んで現実に気づくような内容です。
最後の部分を訳すとこんな感じ。
冷たい焼酎がコップから溢れたら爪の垢がしめって
干乾びた空に雨雲が少しずつ押されてくる苦い焼酎がコップから溢れたら爪の垢がしめって
赤い僕の右頬に今になってやっと雨が降ってきた
この曲、なんと「アラジン」や「アナと雪の女王2」などに混ざって、アカデミー賞主題歌賞のショートリストに挙がっていましたが、正式ノミネートには至りませんでした。
実は存在自体あまり知られていなかったので、みんなびっくり!
本当に最後の最後に流れる曲なので、気づかなかった人も多いかもしれません。監督もぜひ最期の曲まで聞いて欲しいと話しているので、今度見る時は最期まで見てみてくださいね。
やっぱり映画ってエンディングロールまでが作品だよね
韓国版予告編での伏線
国によってポスターや予告編などが違いますが、オリジナルである韓国での一番最初のバージョンがこちら。ナレーションに注目して見てください。
ギジョンが桃の皮についている毛をふっと吹いた後、ナレーターが咳き込んでいます。映画を見た方だったらなぜだかわかりますね。
ポスターもそうですが、この奇妙な感じがするなんともいえない予告編、一体どんな映画だろう?と余計に興味がわきますよね。
この映画をプロモーションするにあたって、どこまで見せるかがとても重要だったと監督が語っていました。
ちなみに地下シェルターの男を演じたパク・ミョンフン俳優は、シナリオを読む前に”秘密維持覚書”にサインし、SNSもやめたそうです。
普通ではない、いろいろな仕掛けを見せてくれるポスターや予告編自体も作品だね
最後に:ポン・ジュノ監督のスピーチも最高だった
カンヌ映画祭のパルム・ドールを初めとして、数多くの賞をとってきましたが、アカデミー賞でも最高賞である作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門で受賞しました。
英語以外の言語の映画が作品賞を受賞するのは史上初という快挙!
カンヌ映画祭とアカデミー賞の最高賞を両方受賞したということも稀なことで、これまたすごいことです!
今までに両方受賞したのは1作品しかないんだって
そしてこちらがアカデミー賞の監督賞を受賞した時のポン・ジュノ監督のスピーチ。
一緒にノミネートされていた監督たちを称える姿がとても感動的で泣けてきます。(そしてユーモアも忘れない)
“And the #Oscar goes to Bong Joon Ho.”
— NEON (@neonrated) February 10, 2020
pic.twitter.com/YNJyfMjUtB
ありがとうございます。国際長編映画賞を受賞した後、もう今夜は終わり、リラックスできると安心していました。(会場笑う)
ありがとうございます。まだ若くて映画の勉強をしていた頃、ある方の言葉を胸に深く刻んでいました。「最もパーソナルなことが最もクリエイティブ」。 映画の巨匠、マーティン・スコセッシ監督の言葉です。(会場のスコセッシへ視線を向け、スタンディングオベーションが起きる。スコセッシはポン・ジュノ監督に何度もありがとうと合図する)
私が学生だった頃、マーティン・スコセッシ監督の作品を研究しました。今日は(スコセッシと共に)ノミネートされただけでも誇りに思います。勝つなどとは想像もしていませんでした。
そして私の映画がアメリカで全く知られていなかった頃、クエンティン・タランティーノ監督がいつも「好きな映画」として紹介してくださった。今日もあちらにいらっしゃいます。クエンティン、大好きです。(客席のクエンティン・タランティーノと笑顔で挨拶を交わす)
(同様にノミネートされた)トッド・フィリップス監督とサム・メンデス監督、大変尊敬する素晴らしい監督のおふたりです。もしアカデミーが許してくれるのであれば、テキサスチェーンソーを借りてこの賞を5つに切り裂きみなさんとシェアしたいです。 ありがとうございます。明日の朝まで飲みます。(会場笑う)ありがとうございます。
そしてアカデミー賞のニュースの後にすぐ入ってきたのが、『パラサイト 半地下の家族』の白黒版です。
ここ近年、ポン・ジュノ監督だけでなく韓国映画やドラマなどコンテンツの勢いがすごいので、これからの作品も楽しみです!
また見直したら新たな発見があるかも!
ポン・ジュノ監督の隠れた名作
『母なる証明』ネタバレ解説:実は〇〇の話だった!監督インタビューによる再解釈