またしてもすごい映画を見てしまいました。
北朝鮮へ潜入捜査する韓国のスパイの話なんですが、なんと実在する人物で(後半に映像あり)、この人物からのリサーチを基に作られた映画なんです。
映画冒頭では、このスパイの実話をモチーフにしているものの、登場する話や事件はフィクションであると断りがありますが、詳細は別として大筋のところは事実とみていいでしょう。
『南山の部長たち』もそうでしたが、もし今の政権が朴槿恵(パク・クネ)前大統領と同じ保守政権だったら、この映画は公開されていなかったかもしれません。
――最初は工作員のコードネームそのままの、『黒金星』というタイトルにしようと思っていたそうですね。
ユン・ジョンビン監督:その通りです。もともと『黒金星』というタイトルを想定していたのですが、製作中に外部に知られることを望まなかったので、『工作』という仮のタイトルを付けました。結果、それが上映時のタイトルになったのです。
――なぜ、外部に知られることがNGだったのですか。
ユン・ジョンビン監督:撮影を始めたのは、2016年。当時は、朴槿恵大統領の時代でした。
出典:「本当にこんなことが…」映画『工作 黒金星と呼ばれた男』監督が語るスパイが明かした衝撃の実話
朴槿恵前大統領の時代には、あのポン・ジュノ監督もブラックリストに載っていたというのは有名な話ですが、この映画『工作』も外部に知られないように撮影をしていたというから驚きです。
それにもかかわらず韓国の名だたる俳優たちが集まっていて、ある意味危険が伴う可能性があっても表現者として作品に残すという心意気を感じずにはいられません。
そこまでして何を伝えたかったのか、『工作』を見たネタバレなしの感想と見どころをお伝えします!
『工作 黒金星と呼ばれた男』あらすじと作品情報
公開 / 時間 / 年齢制限 | 2018 / 137分 / G |
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原題 | 공작(工作) |
監督 | ユン・ジョンビン |
出演 | ファン・ジョンミン、イ・ソンミン、チョ・ジヌン、チュ・ジフン |
あらすじ | 1993年、北朝鮮の核開発をめぐり、韓半島の危機が高まっていた。 情報省少佐出身で、安企部にスカウトされたパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は、北朝鮮の核の実体を探りに北の上層部内部に潜入するように指令を受ける。 コードネームは「黒金星(ブラック・ヴィーナス)」 安企部海外室長チェ・ハクソン(チョ・ジヌン)と安企部長、大統領以外は、家族でさえも彼の実体を知らないなか、対北朝鮮事業家として偽装。 北京駐在北朝鮮の高位幹部リー・ミョンウン(イ・ソンミン)に接近していく... |
- 第55回 大鐘賞(主演男優賞 ファン・ジョンミン、イ・ソンミン、美術賞)
- 第55回 百想芸術大賞(映画部門 作品賞、男性最優秀演技賞 イ・ソンミン)
- 第39回 青龍映画賞(監督賞、美術賞、人気スター賞 チュ・ジフン)
『工作 黒金星と呼ばれた男』感想:ネタバレなし
まさかスパイもので泣けるとは思いもしませんでした。
基本的に身元がバレるか、バレないか、ハラハラした緊張感の連続で、「北朝鮮 vs 韓国」の構図には変わりないんですが、立場が違えど祖国を想う気持ちが通じた二人の行動、表情になんともやられてしまいました。
2回見たんですが、やっぱり感涙。
けして華やかとはいえないんですが、静かな感動を呼ぶシーンは、背景も含めてとても美しく心に残る絵になっていました。
この映画にでてくる俳優たちは本当に名だたる俳優ばかりで、特に派手なアクションがないにも関わらず、相手の心を読もうとする心理戦の連続で、”口のアクション”とも言われていました。
私もいつもは韓国語で鑑賞するんですが、北朝鮮の話し方に加え、慶尚道(プサン周辺の地域)の方言、しかも早口で小声もあって聞き取りが難しく、断念。
日本語字幕で見直しました。
そうした話し方や表情、雰囲気まで、役になりきっていた俳優たちがいたからこそ成り立つ映画で、空気がはりつめた緊張感ゆえに目や口の動きまで注目しざるをえません。
そして、この映画で知ったある事件の事実。
もしかしたら知っている人もいるかもしれませんが、私はこの映画を通して初めて知りました。
なんてことを!!
この事件もそんなに遠くない話で、実際に韓国の人でもこの映画を見て、どこまで事実なのか質問しているのをちらほら見かけました。
今も尚、その事件の系譜をもっている政治家たちもいるわけで、まだ公にされていない裏工作もあるかもしれません。
祖国を守るとはどういうことか?
まだ南北問題が解決していない今現在においても大きな問いかけをする、また、心に染みる映画でした。
韓国での評価
観客数:498万人
評価(10点満点):観客 7.9点、記者・評論家 6.9点
日本よりも韓国の方が辛口。
好評 |
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不評 |
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韓国では当事者なだけに、政治的な内容がからむと意見がわかれるね
鑑賞ポイント
『工作 黒金星と呼ばれた男』で楽しめる鑑賞ポイントをお伝えします。ネタバレはありません。
名俳優の名演技
本当に味のあるいい俳優たちばかりです。
ここの4人以外にも、韓国映画ファンだったら見たことのある顔ぶれを見つけられます。
ファン・ジョンミン
彼が出ている作品はハズレなしです!
『新しき世界(2013)』『国際市場で会いましょう(2014)』『ベテラン(2015)』『哭声/コクソン(2016)』など代表作多数。
庶民的で親しみのある役柄も多いですが、ノワールにもどっぷりはまる俳優です。
ほんとヒット作ばかりだよ
イ・ソンミン
彼も化けます。
最近では、『南山の部長たち(2020)』で朴正煕(パク・チョンヒ)大統領になりきっていましたが、今回の映画では北朝鮮の高級幹部。
話し方、表情、動作、声色まで自由自在ですね。
ドラマでは『ミセン(2014)』『財閥家の末息子(2022)』がおすすめ!
チョ・ジヌン
彼も作品ごとにガラッと変わります。
映画では『お嬢さん(2016)』、ドラマでは『シグナル(2016)』で見たことがある人が多いのでは。
スパイス的な味のある役者さんです。
チュ・ジフン
飄々としてクールで育ちがいい雰囲気が、いい意味でどの作品にも生かされています。
思えば、ドラマ『宮 -Love in Palace-(2006)』で王子様を演じた後、年を重ねてとてもいい味がでてきましたよね。
映画では『神と共に(2017,2018)』、ドラマでは『キングダム(2019,2020)』で大活躍。
彼ならではの雰囲気がいいよね
北朝鮮のリアルな風景
ほとんどの人は北朝鮮の風景はテレビでだけ見たことがあるものですよね。
韓国人も同じ民族でありながら、分断された後は北朝鮮に行くことはできません。
この映画ではかなりリアルな北朝鮮の風景を目の当たりにします。
もちろんセットですが、本当に北朝鮮みたいでした!
韓国には北朝鮮から逃げてきた、いわゆる脱北の方々がけっこういらっしゃるので、その方たちによって検証されたとのこと。
そして、なによりドキドキしたのは、故金正日総書記と対面するシーン!
画面から伝わってくる緊張感が半端なく、おそらくかなりリアルに再現されていると思います。
けっこう背が低い人だったんだね
生きている近代史
この方が実物のスパイ、パク・チェソさんです!
収監されている時に映画化の話を聞き、全く関心もなく、話題になるのが嫌だったようですが、
パク・クネ大統領の時期に、この映画を作ろうとするのは普通の勇気ではできないことで、胸を打たれたそうです。
映画は思った以上によく作られており、身分を洗濯したりすることから、故金正日総書記との会話内容まで実際にあったことだそう。
親しくなった北朝鮮の高官も実在する人物なんですね!
そして映画中で明らかにされているあの事件も。
改めて韓国で次々と映画化されている近代史の事件が、今からそう遠くない話であることにちょっと身震いしてしまいます。
私が学生だった頃にこういうことが起こってたんだ
最後に:政治的な内容をエンタメに昇華した『工作 黒金星と呼ばれた男』
韓国の近代史を映画化した作品は、『タクシー運転手 約束は海を越えて(2017)』『1987、ある闘いの真実(2017)』など民主化運動を描いたものが印象的ですが、
この映画のように最近は今現在の政治にも影響するような、もっと政治的で、政権が違かったら上映されないと思われる作品に遭遇し、ちょっとビビりながらも感心してしまいます。
しかも、そこに見せ場や感動があって、エンタメとしてもおもしろい!
すごいですね。韓国映画。
今後の作品も楽しみです。