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韓国映画『渇き』感想&解説:パクチャヌク全開!愛に欲望に血に飢えた男女の行く末―

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

うぉー!これぞパク・チャヌクワールド全開の映画。

韓国版ヴァンパイア映画ですが、吸血鬼というのはただの設定であって、愛と欲望に飢えた人間をさらけ出す装置でしかありません。

パク・チャヌク監督が「一番うまくいった作品」と話しているように(2019年談)、この映画には監督のエロティシズム、狂気、芸術性、ブラックコメディ…、監督らしさがギュッとつまっています。

好き嫌いが分かれる作品ではありますが、刺激的で今までにないハードな作品を見たい人、パク・チャヌク監督が好きな人には必見の映画

ではどんな作品なのか、感想、見どころを解説します!

主な受賞歴
  • 第62回カンヌ国際映画祭(審査員賞)
パンダ夫人

さっそく本題へ!

この記事を書いた人
  • 韓国在住10年
  • 韓国ドラマ、映画三昧
  • 映画・ドラマのエキストラ経験あり
  • 映画をテーマに卒論執筆

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パンダ夫人
目次

『渇き』あらすじと作品情報

『渇き』poster
出典:NAVER영화:박쥐
公開 / 時間 / 年齢制限2009 / 133分 / R18+
原題박쥐(コウモリ)
監督パク・チャヌク
出演ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク
あらすじ神父サンヒョン(ソン・ガンホ)は、海外で秘密裏に行われているワクチン開発実験に参加、死に至るが輸血された血液のせいで吸血鬼になってしまう。

奇跡的に助かったサンヒョンに、彼が奇跡を起こすことができると信じる信者たちが増えていき、そこで幼なじみのガンウ(シン・ハギュン)と彼の妻テジュ(キム・オクビン)に出会う。

吸血鬼になったサンヒョンは、テジュの不思議な魅力に抑えきれない欲望を感じていく―
パンダ夫人

ポスターは原題の『コウモリ』とストーリーがうまく表現されてるね

『渇き』感想:ネタバレなし

まずは正直に言うと、ストーリーに没頭して「すごいおもしろかった!」というより、美術館でなぜか心に残った絵のように、「(意味はよくわからなくても)すごく斬新で見ていておもしろかった!」というような作品。

「なんでヴァンパイア?」とか、

「この映画のジャンルは何なの?」とか、つまずく人もいるはずで、

韓国映画、いやパク・チャヌク監督の妥協なしに良くも悪くも’とことん’見せてくれる描写が、時には気持ち悪く、暴力的で、過激に感じる一方、すごくエロティックで斬新、美しかったりする。

それはまるで、美しさと醜さの紙一重にあるような芸術作品のようで、好き嫌いが分かれるのも仕方ないのかもしれません。(この作品だけではないですが…)

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

個人的には、「監督の独特な世界観」、「表現主義的な美術」、「奇抜で斬新な構図やアングル」に加えて、「実力派俳優たちの演技」、恋愛・エロスだけでなく、サスペンス、コメディまでジャンルをまたいで見どころ満載、たくさん楽しめたって感じです。

それに、人間の飢えた欲望をこれだけ具現化できるのもすごい!!

過激なベッドシーンも見どころではありますが、それもかすんでしまうほどの名場面が「お互いの血を吸い合うシーン」

このシーンは監督が撮影の10年前に思いついたものなんだそう。

ストーリー的にも視覚的にもおもしろかったのは『お嬢さん(2016)』ですが(これもかなりエロティック)、パク・チャヌク監督らしさがふんだんにつまっていて、見ごたえがある本作も一見の価値あり。

監督としては正統派のロマンス映画に見える最新作『別れる決心(2022)』は、露出がほとんどなく、本作と正反対のように思いきや、その真髄は同じであることがよくわかります。

『渇き』サムネイル

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『渇き』見どころ解説:ネタバレあり

ここからは監督インタビューをはじめ、韓国メディアを参考に、個人的な考察もふまえて解説していきます。

ネタバレありなので、まだ鑑賞前の方はご注意ください

原作と登場人物の名前

小説『テレーズ・ラカン』

エンドロールにあるように、原作はフランスの文豪エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン(1867)』

あらすじ

 アフリカ人の血を引く神経質な娘テレーズは、育ての親ラカン夫人の一人息子で、病弱な青年カミーユと、周囲に勧められるまま結婚してしまう。夫婦とラカン夫人の三人の生活は、パリの薄暗い小路に面した小間物屋で陰気に営まれてゆくことになる。カミーユの幼なじみとしてかれの病床でおとなしく成長したテレーズは、しかし、その内面に強いやりきれなさと欲求不満を隠し持っていた。

 ところが、ある日夫が会社から連れ帰った友人、画家くずれのローランは、たくましく血の気の多い身体と荒っぽい性格を持った、農家出身の男だった。ローランを見たテレーズの胸のうちには情欲の炎が燃えあがる。やがて夫の目を盗んで逢い引きを重ねるようになったテレーズとローランは、次第にカミーユの存在を邪魔に思うようになり、ひそかにカミーユを殺害する計画を立てる……。

出典:テレーズ・ラカン

この小説は何度か映画化されていますが、著名な作品は

  • テレーズ・ラカン(1928)
  • 嘆きのテレーズ(1953)
  • テレーズ 情欲に溺れて(2013)

原作のストーリー自体、男女の愛憎劇とサスペンス要素があるのでおもしろいんですが、パク・チャヌク監督はそこへまたヴァンパイアまで盛り込んで、今までにないリメイク作品になっています。

とはいえ、不思議と小説のストーリーと大筋はあっていて、監督ならではの脚色が見もの

もともと監督は「ヴァンパイア神父」の話の他に、「テレーズ・ラカン」の話を別々に考えていたんですが、プロデューサーの提案でいっしょにしたら行き詰まっていたストーリーがうまく収まったんだそう。

登場人物の名前

本作では、どうしてもヴァンパイアに目を奪われずにはいられませんが、登場人物の名前にしっかりと「テレーズ・ラカン」が反映されています。

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐
  • テジュ:テレーズから
  • ラ夫人:ラカン夫人から
  • ガンウ:カミーユから

それぞれ原作の名前に近い韓国名になっています。

原作でローランにあたる神父だけは、ヒョン・サンヒョン(현상현)という名前で、韓国語では回文(上から読んでも下から読んでも同じ)です。

名前は「現実が発現する」というような意味合いにもなり、回文が復活したイメージやグルグルと回って抜け出せない、もしくは血をお互い吸い合うようなイメージを想起させられます。

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

また、ラ夫人は太陽神ラー(韓国語ではラ)のイメージに重ね、ラストシーンで太陽が昇り消えていく2人を見守る役という解釈もあります。

パンダ夫人

原作を知らなくても楽しめるけど、わかるとおもしろいよね

今までにないヴァンパイア映画

吸血とエロス

これまでのヴァンパイア映画の典型的イメージは、「若い女性の血を吸う → エロティックさを感じる」ものでしたが、この映画では「性行為=吸血」を、「吸血=性行為」を暗示しているといえます。

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

サンヒョンとテジュは最初に性関係を持ちましたが、サンヒョンがテジュにひかれたのも、血の匂いに敏感に反応してからであり、抱きながら首にかみつこうとしたりとその行為は吸血を暗示するものです。

これも、ヴァンパイアが渇望していた血だけでなく、神父が渇望していた性も(そしてテジュも)「抑えられない渇き」として描かれているからで、こうした本能的な欲望が前半ではベッドシーンで、後半では血を吸い合う姿でうまく重なってますよね。

パンダ夫人

お互いに吸い合ったりする構図もデジャヴ感ある!

テジュのキャスティング秘話
『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

監督曰く、テジュのキャスティングには相当苦労したようで、何度も断られて挫折していたそう。そんな時にキム・オクビンに会うことになったものの、22歳と聞いて断念(ソン・ガンホとの年齢差のため)。とはいえ、せっかくなので会ってみたら、5分もしないうちに確信したとのこと。

暴力的な吸血

監督は、今までのヴァンパイア映画の「血を吸う時に傷ついた場所が見えない」のが不満だったそう。

それもあって本作では、血を吸う時は傷をつけて、出てくる血を吸う設定になっています。

(特にテジュは噴き出る血を見て喜び、鑑賞してから飲んだりして…)

パンダ夫人

ドクドク、ピューって、けっこう血祭り…

こうしたエロスと暴力の表現・融合が、パク・チャヌク監督ならではのヴァンパイア世界を作りあげています。

神父が堕落していくストーリー

監督の生い立ち

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

監督は無宗教ですが、敬虔なカトリックの家系だったので、10代までは日曜日ごとに教会に通っていたそうです。

ミサでイエスの血の象徴であるぶどう酒を飲む神父を見て、血を飲むヴァンパイアと神父が重なって見えはじめ、そんな想像をいろいろとしたんだとか。

この時に映画までではないとしても、そうしたイメージの下地がその頃にできていたんですね。

神父がヴァンパイアになった堕落の底

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

病院で働くサンヒョンは、人々を助けたいのに何もできない無力感から、誰かの役に立ちたい思いで自分の身を投げ出し、ウイルスの実験に参加した崇高な神父でした。

ところが、そこでヴァンパイアになってしまい、皮肉にも人の血を吸わなければならなくなります。

それでも人を害さないように、昏睡状態の人から血を分けてもらったりして、消極的に血を吸っていくんですが、本能的な欲求を抑えられずに名分を立てては合理化し、どんどん下に堕ちていくのです。

(彼なら昏睡状態じゃなくても血を分けてくれるはず)

(むしろ自殺願望者の助けになっている)

ついには、しないと決めていた殺人まで…

最初の殺人はガンウ(それでも吸血のためではなく、テジュを救うためだった)

2番目の殺人はノ神父(血は吸ったけど、新たなヴァンパイアの脅威を防いだ)

3番目の殺人はテジュ。

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

ガンウについて騙したことがわかり、態度が急変したからであるものの、テジュを殺して涙をこぼした直後、ヴァンパイアとしての本能から血をむさぼる姿。

この様子を後ろから俯瞰で撮ったシーンは、まるで性行為のようにも見え、これ以上弁明のしようもない底に堕ちた姿といえるでしょう…。

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この一連のシーンはまさにクライマックスで名場面!!

ラ夫人の視線でハッと気づいたサンヒョンは、テジュをヴァンパイアにして生き返らせますが、麻雀仲間の虐殺で、堕ちた自分とヴァンパイアにしてしまったテジュを消滅させる道を選ぶのです。

堕落していくがゆえの演出

何度かサンヒョンが窓にジャンプしたり、飛ぶシーンがありますが、普通は下から飛ぶのを撮ることが多いのに、本作では上から映しているんですよね。

スーパーマンが飛んでいくような爽快さは一切なく、上に飛んでいるのに、むしろ落ちていくような感覚

これも、神父が堕落していく話がゆえ、上昇するイメージはカットされており、テジュがサンヒョンに「屋上から飛んで」と2人降りていくシーンはあっても、昇っていくのは階段でしたね。

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

「孤児院にいたサンヒョン」と「親に捨てられたテジュ」は共通点が多い反面、ヴァンパイアになって「葛藤するサンヒョン」と「楽しむテジュ」が対称的に描かれています。

消極的に吸血するサンヒョンは、血を吸う姿勢も下で受ける形になっており、積極的に吸血するテジュはヴァンパイアになってからの方が生き生きと血色よくなっていきます。

パンダ夫人

テジュはヴァンパイアになってからメイクも衣装も変わるよね

アダムとイブのモチーフ

サンヒョンがアフリカへ行って実験したウイルスの名前は「イブウイルス

しかもほとんどは宣教師、つまりは独身の男性だけがかかるとはなんとも寓話的。

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

イブウイルスにかかったアダム(カトリック神父のサンヒョン)という話自体、エデンの園でイブがアダムを誘って禁断の実を食べてしまったのと同じ状態といえます。

また、聖書でアダムのあばら骨からイブが生まれたように、本作ではサンヒョンの血からテジュがヴァンパイアとして誕生。

サンヒョンがヴァンパイアになってしまったのは彼のせいではないですが、彼は罪を犯してしまった自分とヴァンパイアにしてしまったテジュを、まるでエデンの園を去るように消滅させます。

しかも、サンヒョンを崇拝する人たちの誤解を解くために、わざと醜態を見せて「自分がイエスのような救世主ではない」ことを証明してから。

監督がどこまでアダムとイブを考慮していたかはわかりませんが、監督の背景やカトリック神父を思えば、このモチーフが見え隠れするのはまちがいないでしょう。

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

表面上、神父がヴァンパイアになって堕落していくストーリーは、見方を変えれば、神父が自らの身を持って2回も犠牲になった話ともいえます。

ウイルス研究所のシーンで「心理的な殉教と自殺を区別するのは困難だ」という言葉が出てきますが、「実験に身を投じた時」と「ヴァンパイアを消滅させた時」は、自殺なのか殉教なのか区別することはできません。

そして、なんだかんだ言っても、惹かれあったサンヒョンとテジュが2人で最後を迎え、間接的ではあるものの、目の見えなかったノ神父の「海で日の出を見たい」という願いを叶えてあげることになるラストシーンはとても印象的です。

パンダ夫人

最終的には恋愛映画のように終わったのもよかった~

独特な世界観を生むおもしろい演出

混在のおもしろさ

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

ラ夫人の家、韓服のお店はよくよく見ると異色的で不思議な感じがしませんか?

伝統的な韓国の服の店なのに、なぜかマネキンは西洋っぽいし、この家自体が韓国でいう昔の日本式家屋なのです。

(店を閉める時に日本語で「しまい」って言ってる!)

そこへ中国の麻雀を楽しみ、ロシアのウォッカを飲み、フィリピン人もいて、韓国の懐メロが流れたかと思えば、ドイツのバッハの音楽も流れ、後半ではアメリカのように家の中でも靴を履いてすごす。

調度品もよく見ると、いろんな国のものが混じっています。

これも、まるでヴァンパイアがいろんな人の血を飲み、血が混ざっていくようですよね。

パンダ夫人

ブレンド?ミックス?ちゃんぽん?

幻覚の可視化

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

ガンウを殺してしまった罪悪感から、テジュもサンヒョンもガンウの幻覚を見るようになりますが、その表現がおもしろい!

水に沈めたガンウがその重石を持って水浸しで現れますが、寝室の壁紙やシーツの柄が独特で、水が滴ると本当に水の中にいるよう。(しかもウォーターベッド)

美術監督によると、壁紙やシーツはカビ、ばい菌、病原菌がコンセプトで、水中を想起されるのはもちろん、どんどん侵入してくるイメージ。

それも、テジュがサンヒョンにウソがばれて、唾を吐きながら「この病原菌め!(韓国語直訳)」と言うセリフからきたアイデアだそう。

また、この映画では水がドロッとしていて血のようであり、血が水っぽく感じませんか?

ここでの水はガンウの幻覚が重くまとわりつくようであり、ヴァンパイアにとって血は水のように日常的なものだからかもしれません。

パンダ夫人

監督の映画はどれも壁紙が独特な柄だけど、この壁紙が一番気に入っているんだって

最後に:テジュ演技は映画『ポゼッション』を参考に

見どころを解説してきましたが、これらの見どころも俳優たちの演技があってこそ

パク・チャヌク監督作品の常連である、ソン・ガンホ(神父)、シン・ハギュン(ガンウ)はもちろんのこと、目だけで演技をしたキム・ヘスク(ラ夫人)もギョッとさせられたり、時にはコミカルだったり、すごいインパクト。

中でもテジュ役は、数多くの女優達に断られてきた難役。

それを若干22歳のキム・オクビンが演じることになり、パク・チャヌク監督が演技の参考にするように勧めたのが映画『ポゼッション』のイザベル・アジャーニ

『ポゼッション』スチールカット
出典:IMDb:Possession

パク・チャヌク監督が好きな映画だそうですが、この『ポゼッション』めちゃくちゃ狂気的で、相当ヤバいです…

何と言ってもイザベル・アジャーニの強烈な演技がすごくて、カンヌ映画祭で主演女優賞受賞しています。

『渇き』スチールカット
出典:NAVER영화:박쥐

テジュが終盤で青い服を着ているのも、『ポゼッション』のオマージュということになっていますが、実は監督としては当初青い服に難色を示していたんだとか。(マネしてるように見えるし)

衣装監督、美術監督は、今までのヴァンパイア映画にありがちな赤や華やかな衣装ではなく、血と対比する青い服を提案。

理性的な青い色だからこそ、テジュの本能的な姿が映えるということで青い服が結果的にうまくいったんだそうです。

ともあれ、パク・チャヌク監督も気にしていた映画『ポゼッション(1981)』(アンジェイ・ズラウスキー監督)、予告編でさえもひいてしまうようなハードすぎる映画ではありますが、興味のある方はぜひ見てみてください。

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パンダ夫人

サム・ライミ監督のホラー映画も『ポゼッション(2012)』で同名。まちがえないでね~(こっちも怖い)

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